別に

君にケーキを焼かせるために

誕生日があるわけじゃない…








+++ So My Sweet...3 +++

 




高校を卒業してから、誕生日の頃に家にいることが少なくなった。
それでも、毎年その日になると家族とあいつからは連絡があって、俺は自分の誕生日を思い出す。
もう、祝われる歳でもないのだが、まぁ、悪い気はしないと思えるから、不思議だった。

オフで帰宅し、母親に「今年は我が家で誕生日なのね」と言われて、自分の誕生日が翌日なのに気付いた。
久しぶりの自室は、綺麗に片付けられ、昔のままである。
空がよく見える方の窓を開けると、柔らかい秋風が頬をくすぐる。
整えられた布団は太陽の匂いがした…。

 

 

「きょーくーん」
窓をこつこつと叩く音がする。
恭一は読んでいた図鑑から目を離し、立ち上がって窓を開けようとした。
しかし、閉められてしまった窓の鍵は、手を延ばしても届かない。
恭一は部屋にあった本やブロックを積んで、台を作り、なんとか鍵を開けた。
「いーれーてー」
鍵をあけた途端、窓をよじ登って滑り込んで来た小さな幼なじみが恭一にあどけなく微笑む。
その幼い顔が段々大人びてきて…

 

 

「きょーくん?風邪ひくよー?」

かけられた声に目を開ければ、そこには声の主の顔があった。
いつの間にか開いていた二つの窓からは、心地よい秋の風がふき続けている。

「…勝手に入ってくんな…」
起き上がって、頭をかく。
随分と昔の夢を見た。
あの頃、この窓は高くて開けるのが大変だった。でもそれは二人の秘密の扉で…

「失礼な。ちゃんと玄関から来たよ。ケーキ持ってね。」
腰に手を当てて主張する彼女をぼんやりと見つめ、
回復する処か増してくる眠気をまとう時差ボケした脳内は、眠り続ける指令を送る。
「…んなことしなくて…いーんだ…よ…」

その先の記憶は、ない。

 

「きょーくん?ちょっとー…」
持ち歩いていた懐中時計を開き、影貴は苦笑した。
「6時…か。そりゃ眠いよね…」
いつも側にいた幼なじみがすごす、違う時間の遠い世界。
小さな時計で彼の時を追いかけてこっそり繋いでいた。
足元にあった布団を肩まで広げ、規則正しく寝息を立てる枕元にしゃがんだ。
学生時代に黄金色だった髪はいつの間にか本来の色に戻っているが、相変わらず短く揃えられている。
影貴は無意識に手を伸ばし髪を撫でた。
「いつもケーキで、ごめんね…」
もぞもぞと寝返りを打った恭一は、影貴に背を向ける。
いつの間にのばしたのか、細長く襟足が伸び、尻尾のように小さく結ばれていた。
思わず指を絡めたくなる。

「…別になんもしなくていいんだよ…」
「!!!」
尻尾をいじっているといきなりそう言われ、影貴の手が止まる。
手を引っ込めるとそっぽを向いていた顔がこちらを向いた。
目がぼんやりしている。
「くすぐってーだろ。首に当たるんだよ…!」
「ご、ごめ…」
いくらかの沈黙の後、口をヘの字にした恭一が唇を開いた。
「別にケーキ作らせるために帰ってきたんじゃねーよ。手ぶらで来い。」
「……へ?」
「眠い。」

そう言うとそそくさと再び背を向けて恭一は寝息を立てる。
影貴は苦笑して冷え始めた風の入る窓を閉め、カーテンをかけた。

「おかえりなさい、恭くん…」













十日も遅れてしもた!きょーくんお誕生日おめでとさんでした!
いや、本当は脳内完結ですませるつもりだったんですが、素敵イラストいただいたり、
お誕生日のお言葉やらかけてもらったりしたので、お礼の気持ちも込めて。

恭一は高卒で大学行かずにサッカー選手をやってるらしいので、今回はヨーロッパから帰ってきた設定です。
卒業後はあまり考えたくなくて、今も詳しく決めず、想像にお任せにしていたり。

08.10.22